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ナイスビジネスレポート

「地域型住宅ブランド化事業」 と木造住宅施策の行方

 2012年度の住宅政策のうち、木造住宅の振興において最も注目を集めているのが「地域型住宅ブランド化事業」です。6月8日に同事業の第1回の応募が締め切られ、8月初旬にも採択の結果が公表される見通しです。今回は、同事業の推進において中心的な役割を果たしている国土交通省住宅局住宅生産課木造住宅振興室長の加古貴一郎氏と、安全・安心な住まいの実現に向けて精力的に活動を行うNPO法人住まいの構造改革推進協会の平田恒一郎最高顧問による対談をお送りします。

グループ一体で「地域型住宅」を供給

加古 貴一郎氏 平田 2006年に「住生活基本法」が制定されて以来、国民の豊かな住生活の実現に向けて、@ストックの重視、A市場重視、B福祉、まちづくり等に関連する施策分野との連携、C地域の実情を踏まえたきめ細やかな施策展開などを基本方針とした住生活基本計画が定められ、これまでに住宅の耐震化をはじめ、低炭素社会に向けた住まいのあり方など、安全・安心な居住環境の確保や、既存住宅の流通市場の整備などの施策が着々と進められてきました。そのようななか、新築住宅については長期優良住宅が制度化され、「フラット35S」や税制面の優遇などの施策と併せて一般ユーザーの皆様にも徐々に浸透してきましたが、今年度はさらに「地域型住宅ブランド化事業」の導入を受け、これに対して全国各地で積極的に取り組む動きが見られます。また、中古住宅についても施策が具体化し、2020年までに既存住宅流通・リフォーム市場の規模を10兆円から20兆円へと倍増させる「中古住宅・リフォームトータルプラン」が示されました。今、まさに住宅業界をめぐる環境は大きな転換点を迎えていると思います。
 加古室長はそのなかで、「地域型住宅ブランド化事業」を通じて、木造住宅の振興を推進する中心的な役割を果たしておられると思いますが、まずはこの事業の目指すところを教えてください。
加古 「地域型住宅ブランド化事業」とは、中小工務店が建設する長期優良住宅を支援するため、2011年度まで実施してきた「木のいえ整備促進事業」をさらに発展させたものです。具体的には、それぞれの地域の住宅の生産において原木供給、製材、建材流通、プレカット加工、設計、施工などの機能を担っている各事業者がグループをつくり、そのグループならではの特徴的な住宅像(地域型住宅)を明確化し、生産に当たって共通のルールを定めていただきます。さらに、この地域型住宅のブランド化を推進するため、その普及促進だけでなく、維持管理、技術の継承や資源の循環利用、災害時の応急仮設住宅の供給体制に至るまで、取り組みと役割分担などを明確化していただき、これらに基づいて実行しようとするグループを国土交通省が採択します。採択を受けたグループの中小工務店等(年間供給戸数おおむね50戸未満)が建てる長期優良住宅に対し、1戸当たり建設費の1割以内かつ100万円を限度、地域材を活用することでこれに加えて20万円を限度に補助することになっています。つまり、従来は中小工務店単独での長期優良住宅への取り組みに対して補助していたものが、グループとして、地域のサプライチェーンとしてどのように住宅を生産・供給をするのかを決めて応募するという形へと変わりました。
 内閣府の調査で、国民の8割以上が木造住宅に住みたいという結果が出ているように、一般消費者の木造住宅に対する関心には高いものがあります。これは健康への配慮、品質・性能や耐久性、さらに持続可能な循環型社会への関心の高まりのなかで、国産材に対する意識の向上や、木材が再生可能な環境にやさしい資材であることが認知されてきたことなども要因と考えられます。また、農林水産省の「森林・林業再生プラン」では、目指すべき姿として2020年までに木材の自給率を50%にすべく、さまざまな施策が行われていますが、日本国内の木材需要においておよそ4割弱が建築用の製材用材と、住宅建築の占める割合は高く、我々としても同省と連携して地域材を活用し、地域の気候・風土にあった「地域型住宅」を推進するということは、住宅ニーズと供給の両面において、時代の要請であると考えています。そして、木造軸組住宅の建築の約6割を年間供給戸数50戸未満の中小工務店等が担っているという現状を踏まえても、これらの皆さんが長期優良住宅の基準に適合し、かつ地域材等を活用した住宅を供給できるような施策を展開することはとても重要であると考えています。長期優良住宅の認定実績は累計約29万1,000戸(2012年6月末時点)と、新築一戸建住宅のおおむね4分の1前後の水準ですが、これからはさらに長期優良住宅が主流になっていくでしょうし、我々の立場としてはこれを主流にしていかなければいけないと考えています。そのような意味で、「地域型住宅ブランド化事業」は単なる補助事業としてではなく、地域をあげて、関連する事業者が一体となって「地域型住宅」を推進する枠組みとして、広く深く浸透させていきたいと考えています。

第1回の応募は592グループ、 3万3,850社

平田 第1回のグループ募集は6月8日に締め切られましたが、応募の状況、またその手応えはいかがでしたか。
加古 各地において非常に大きな反響をいただき、北海道から沖縄まですべての都道府県から応募があり、合計で592グループとなりました。東京都、愛知県、大阪府、福岡県など大都市圏からは当然ながら多数の応募をいただきましたが、東日本大震災で被害の大きかった岩手県・宮城県・福島県の3県は、地域材を利用し、地域の事業者が主体的に震災復興を目指すという方針で先に取り組みが進んでいる「地域型復興住宅」の枠組みがあり、大都市圏にも劣らない多くの応募数となったことが特徴的でした。
 次に、今回応募されたグループの結成年を見ると、2010年度、2011年度に結成したというグループが合わせて183グループ(30.9%)だったのに対し、2012年度、つまり「地域型住宅ブランド化事業」への応募のために結成したというグループが409グループ(69.1%)に上りました。それだけ多くの皆さんがこの制度を活用するために新たな取り組みをスタートしていただいたということであり、我々としてはとてもうれしく思っています。実際、これまで原木供給者から施工業者まで、関連する事業者が家づくりにおいて一体となり、同じ目的のもとでサプライチェーンを構成するような機会がなかったことから、採択・不採択の結果のいかんにかかわらず、このような新たな取り組みはとても有意義だという声も多数いただいています。私も、それぞれ属性の異なる事業者の皆さんが同事業への参加を目的に集まって知恵を出し合い、家づくりについて議論をしていただけたことは、大変価値の高いことであると思っています。
平田 「地域型住宅ブランド化事業」は参画した事業者の数も非常に多数であり、しかも多岐にわたる業界関係者を広く巻き込んだという意味でも、木造住宅の振興はもちろん、住宅業界の活性化において、かつてないほどの有効な施策だと思います。
加古 応募したグループの数は592件ですが、原木供給から施工まで、実際に参加した事業者数は累計で3万3,850社となりました。それぞれ複数グループに重複登録することが可能であることから実数はこれより少ないですが、中小工務店等の実数は1万1,254社に上り、本当に多くの皆さんに参加いただけたと実感しています。統計的に工務店の実数というのはなかなか把握が難しく、業態も多岐にわたっているため未だ信頼できる統計データは十分ではありませんが、この施策を継続することによって、工務店の実態がより正確に把握できるようになると考えています。行政側の立場としては、信頼できる統計に基づいて的確な施策を打つということが重要であり、そのような意味でも価値があるのではないかと思います。

代表は施工業者、 事務局は建材流通が主

平田 応募したグループの構成や規模の状況はいかがでしたか。
加古 グループの代表者は385グループ(65.0%)が施工業者となっていますが、事務局を務めるのは建材流通が236グループ(39.9%)と最も多くを占め、次いで施工が209グループ(35.5%)、設計が202グループ(34.1%)となりました。同事業のねらいとしては、地域の中小工務店が主体性を持って取り組んでいただけるようにしたいと考えていますが、そのサポート役としては、原木供給・製材から建築現場まで広くフォローできる建材流通業者が事務局を務めるケースが最も多いという結果になりました。サプライチェーンを横断的に束ねる調整役として、建材流通が事務局を担うことは自然な成り行きであるのかもしれません。
 施工業者の構成員数については、10〜30が296グループ(50.0%)と半数を占めていますが、51〜100が62グループ(10.8%)、101以上が11グループ(1.9%)でした。構成員数の大小のみで各社の主体性を判断するのは難しいですが、顔が見える範囲の関係で議論ができるように、学校のクラス単位ぐらいの構成員数になるのが自然な流れのように思います。
平田 従来は競合するライバル企業で、コミュニケーションを図ること自体も皆無に近かったという事業者同士が、「地域型住宅ブランド化事業」に取り組む過程で、ともに議論したり、切磋琢磨したりすることで、親密な関係が構築できたというような話も多々聞いています。この事業を通じて地域の事業者が一体となり、大手ハウスメーカーに負けない、地域の住宅としてのブランド化を推進するということが本来目指される姿であると思いますので、このような活動を通じて目標が共有化されることはとても価値のあることだと思います。

重要なのは中小工務店の主体的な参加意欲

平田 まもなく第1回募集の採択の結果が明らかにされると思いますが、その評価のポイントについてはどのように考えておられますか。
加古 事業の採択に向けては、学識者も交えた評価委員会で評価のポイントに則って検討し、その結果を受けて国土交通省で採択、不採択を決定します。
 評価に当たって、まず応募要件を満たしていることが大前提ですが、最も大切なことは先にも述べたとおり、組織力のある特定の企業グループなどの応募で、一律に同じようなものを提案するのではなく、地域の中小生産者の皆さんが主体的に参加し、地域としてのブランド化を考えて、しっかりと家づくりについて議論していただいたうえで、グループ全体が一体となってがんばろうという意気込みがひしひしと伝わってくることだと思います。
 また、この取り組みによって枠組みに加わったグループ構成員の技術力向上や人材育成、さらには資源の循環利用などを通じて、地域貢献などを果たしていけるかどうかという点も重視しています。
 一方で、例えばどんなに議論して、商品をつくり込んだとしても、政策支援の対象としては、生産者側の趣味を押しつけるようなものであったり、特定の人たちだけにしか受け入れられないものであることは望ましくないと思っています。グループごとに商品的な特徴が異なり、一般消費者にとって選択の幅が広がるということ自体は悪いことではありませんが、明らかに一般の方が買えない高級・高額商品であったり、嗜好が偏ったマニアックなものであったりするよりは、地域の方々に広く受け入れられるもの、地域の住宅関連産業に貢献できるようなものを評価していきたいと思います。

木造住宅の振興のための枠組みとして

平田 「地域型住宅ブランド化事業」はまだ第1回目と端緒についたばかりであり、応募したグループは採択・不採択の結果がゴールではなく、採択されたところからが本当のスタートだと思います。また、採択されなかったグループや、第1回の募集に応募しなかったグループは第2回の募集、あるいはそれ以降にチャレンジすることで木造住宅の振興と業界の活性化がさらに進むと思います。今後の運営についてはどのように考えておられますか。
加古 おっしゃるように、本事業の応募を通じて地域ごとにさまざまなグループが形成されていますが、現状はサプライチェーンが一体となって地域のブランド住宅を供給できる体制が構築されたにすぎず、これが一般消費者の皆さんに受け入れられ、供給できるようになるかどうかは別の次元の問題です。つまり、採択されたということはそのグループが定めた「地域型住宅」のルールに則って建てる住宅が、本事業による補助金が得られる資格を得たということにすぎないのであり、今後も継続してそのグループのなかで議論し、地域で供給できる体制を確立していただきたいと考えています。
 一方、行政の立場から見て、このたび形成されたグループは我々からの情報発信や制度の認知・浸透などにおいても大いに有効になると考えています。「地域型住宅ブランド化事業」のほか、「住宅省エネ化推進体制の強化」などの施策を展開・推進するため、地域ごとにさまざまな協議会、団体などを通じて普及・啓蒙などの活動を推進していますが、最前線の中小工務店等にこれらを徹底するうえで、それぞれのグループが受け皿として機能することを望んでいます。国土交通省としては、「地域型住宅ブランド化事業」のほか、住宅の省エネルギー化とゼロ・エネルギー化、「中古住宅・リフォームトータルプラン」など、地域に根ざした優良な住宅の供給に向けてさまざまな制度づくりを進めています。これらの事業の推進において、このたび形成されたグループを有益なネットワークとして生かしていただきたいと思います。
 今回、採択されたグループが実際に補助金を受けられる棟数は限られており、同事業に対する直接の恩恵は薄く感じられるかもしれません。しかし、自分だけの力では成し得ないものをグループで知恵を出し合い、それぞれのウィークポイントを補い合うとともに、グループとしてスキルアップし、地域の住宅産業の発展のために力を合わせて取り組んでいただけたらありがたいと思います。我々もそのような皆さんを精一杯バックアップしていきたいと思っています。
平田 「地域型住宅ブランド化事業」というのは過去の住宅行政のなかでもきわめて画期的な施策であり、これから新設住宅着工戸数がもう一段減少すると見られているなかにあって、のちに歴史的な転換点となったと言える施策になると感じています。現時点においても、これほど施策の趣旨が広く理解され、しかもサプライチェーンを構成する多くの事業者が一体となって取り組んだものは記憶にありませんし、取り組む姿勢としても自社のことばかりを主張するのではなく、地域のため、業界のためといった視点で議論されていることが特徴だと思います。それだけでも、ものすごいムーブメントと言えるのではないでしょうか。
 また、地域の工務店様によって長期優良住宅の普及が促進されるということは、新築住宅の耐震性が底上げされ、耐震等級2以上の住宅が増えるということであり、当協会はもちろん、住宅の耐震化を推進する者にとっても大変ありがたく思っています。私ども住まいの構造改革推進協会としても、この事業の普及・浸透に向けて精一杯取り組んでいきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

平田恒一郎氏

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